生命と文化の根源

私たちが口にするほとんどの食べ物は、もとを辿ると、1粒のタネから生まれたものです。

 

タネは、サンスクリット語で「Bīja(ビジャ)」と言います。それは「生命の源」という意味です。小さな1粒のタネの中に、生命の全ての可能性が詰まっています。

 

 

我が国の最古の歴史書である『古事記』。

その神代にあたる「天孫降臨」の場面でタネについての記述があります。それは天上の世界である高天原(たかまのはら)で太陽神、天照大神が地上に出発される天孫、ホノニニギノ命に対して祝福の言葉を述べられ、タネである稲穂を託し、地上に送られる場面です。

 

 

その祝福の言葉とは、「あの雲下に見える『豊葦原の瑞穂の国』(とよあしはらのみずほのくに:稲穂が隅々まで実る豊かな土地、日本)をどうぞホノニニギノ命、あなたが治め、この稲で世界一の稲作国家を築き、地上に高天原を築いてください。(天壌無窮の神勅)」というもので、天照大神は祝辞を述べられ、高天原に実る稲穂を天孫に授けられました。天孫はその稲穂を握りしめ、地上の日向の地(宮崎)に降りられ、国土の統一を実現されました。


タネは正しく、私たちの生命と文化の根源なのです。


タネには自らの生命を未来につないでいこうとする力が秘められています。それは様々な環境の変化にも適応しながら、自らを成長させていきます。私たちの先祖はその力と共に繁栄してきました。

 

それができたのは、私たちの先祖が、タネは共有の財産として扱い、独占や占有を認めなかったからです。さつま芋が沖縄から鹿児島に伝わり、それが日本の隅々にまで伝わり、収穫ができるようになったのは、それを誰も占有することがなかったからです。それは私たちの先祖の知恵であり、そうであったからこそ、人類は繁栄し、豊かな文化を育むことができました。


 

そのタネに異変が起きています。現在、世界で売買されているタネの多くが、複数の巨大なグローバル企業に占有されています。世界はグローバル化による生命と文化の略奪を受けています。


日本はペリー来航から昭和に至るまでの凡そ100年間、欧米列強の支配と戦いました。特攻隊として散っていった若者は未来の若者のために命を捧げました。

現在の私たちの世界もまた多くの問題と直面しています。安全と繁栄の象徴であった欧米でさえ、失業による暴動や、難民の増加、緊縮財政のもとで社会保障費が削減され、デモが起こっています。貪欲なグローバル化が全世界に広がるにつれて、貧困、格差が拡大しています。


私はアジア、とりわけ日本には特別な何かがあると感じてきました。それは多様性、思いやり、何世紀にもわたって受け継がれてきた文化や知恵、自然に対する畏敬の念であり、そして人や世界をより良くする新しいものに気づく力です。

 

私たちは自らの欲にとらわれるところから抜け出し、進まなければなりません。それはずっと前から私たちが気づいていた日本人の精神です。


今こそ現在の在り方を超えて次の段階に進む時です。

タネは私たちに本当の意味での豊かさを与え続けてくれます。